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映すは蒼
気がつくとベッドに横たわっていた。いつも通りの私の部屋。窓から朝陽が差し込んでいた。眠っていたのか。鏡の世界から帰ってきたのか。それはわからなかった。
鏡を覗いたら彼はいるだろうか。姿を見せてくれたらさっきみたいに微笑んでくれるだろうか。昔みたいに話してくれるだろうか。そんなことを思って今すぐ鏡を見たかった。が、この状態で彼に会うのは恥ずかしく感じた。起きたてで髪の毛ぼさぼさだし、パジャマだし。ベッドから飛び出ると髪型を整えちょっとかわいいワンピースを着て、ふう、と一息。深呼吸。幼い頃によく話しかけた鏡を覗き込んだ。しかしそこにはめかしこんだ自分が映るだけだった。
待て待て自分。落胆するのは早い。呼べば来てくれるかもしれない。鏡よ鏡、といっても私が口を動かしているのが映るだけだった。昔のように鏡に彼が映ったり声をかけたりしてくれる様子はない。
しばらく待ってみたがだめだった。
「やっぱりただの夢だったのかしら」
高校生にもなって夢での出来事を真に受けるのも馬鹿馬鹿しいのかもしれない。
けれどどこか諦めきれなかった。嫌だな、折角あなたのこと思い出したのに。じゃあ私は今この瞬間何に想いを馳せてこんなことしているんだろう。相手がいないなら恋にもなれない想いじゃないか。
ねえ、寂しくない?寒くない?
流した涙さえも無慈悲に鏡は映す。
朝陽に照らされてかいつもよりも映る姿が輝いて見えた。
<完>
→オマケ。出会い編
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