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映すは蒼

「鏡よ鏡」
 幼い頃、私はよくそう言って鏡に向かって話しかける不思議な子だった。両親はそんな話を頻繁にする。映画に影響されていたのもあるかもしれない、お伽噺が好きな子だったからねという思い出話に花を咲かせるのが私たち親子の会話の定石だった。しかし心の中でとどめているがその話には続きがある。
「今日も来たんだな」
「そう!今日もなにかお話しようよ!」
 鏡の向こうからそんな声が聞こえていた気がするのだ。イマジナリーフレンドだったのか、記憶違いか、はたまたお化けだったのか。ただなんとなくあたたかい気持ちになれるのはノスタルジーからくるものなのか。
 無駄に装飾にこだわったアンティークな代物。ヒビの入ったその鏡をのぞいても今もこれからも私しか映らない。

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